バニラチルノ

名前を登録してください。

鐘のなる



いつだってさよならは突然で、突然に音などない。あるのは記憶のみ。記憶がなくなってしまえば、あったという事実さえ消えてしまう。記憶をなくして事実を消すことは美しいのかどうか。そんなのいつだってわからないし事実が過去になったところで美談にもなんにもならない。記憶に形も音もないように、事実なんてものが存在してるかどうかさえわからない。なんとも潔いね。宇宙の端より地球のまんなかより定義しにくい人間の心が美しくて醜い。なんにもない。なんにもない。


なにもがんばってないのにご褒美に買ったハーゲンダッツもかたくてあけられないしあいたと思ったら好みの味ではなくてふたくち食べて冷凍庫にしまった。期間限定のコンビニのお菓子の棚。先入先出するよりさきに、いらない感情を先に捨てるべき。在庫確認。検品して削除。



別れた後もまちのどこかで会うかもしれないねといった恋人だった人とは一回も会ってない。煙草の箱の中身が減るのが早すぎてすぐいっぱいになった灰皿を取り替えるために店員さんを呼ぶのでさえ恥ずかしがってたあの人のことを私はなにも知らない。コスパしか考えずに買ったまずいお酒で悪酔いして吐いたあとに隣にいたあの人のやさしさも別に覚えてないよ。思い出そうとしてもほとんど思い出せないし本物の恋とかそういうのよくわからないけど本物かどうかも好きだったのかどうかも必要だったのかどうかも寂しかっただけなのかどうかも相手の気持ちもなにもわからない。記憶に残ってないので全部存在しないことになるね。私の時間はどこにいってしまったんだろう。元々なかったのかもしれないけど、それでいいのかな。せめて私がいなくなったら私のことは最初からなかったことにしてほしいし、それなのに今の私のことずっとずっと覚えていてほしい。インターネットの私なんて虚構なのだけど。大体は僕です。は虚構だし私だって虚構。うそとほんとの判別もつかない。バンドの誰かが脱退するとき、家族みたいな存在とか言ってる人の気持ち、まったくもってわからないしこの言葉のどこがきれいなのかわからないのに常套句になってるの、ほんとうに意味がわからない。〜〜が脱退しても、バンドも、家族みたいな存在だった〜〜も、応援してほしい。飾った言葉が本音であっても嘘であってもどっちでも別にいいけど、きっと誰もわかんないよ。







今日も深夜二時。なんとなく太腿にカッターの刃をあてると、赤い線ができた。そこから滲んだ赤いもの、誰の役にも立たない今日も明日も燃えるゴミ。